経済

生活保護減額、補塡は一部 厚労省案「最低でも2.5%減」に原告反発か

11/8/2025

近年、生活保護費の引き下げ問題が社会的関心を集める中、厚生労働省は2013年から2015年に実施された生活保護費減額に関する最高裁判決を受け、補塡措置の方針を改めて示した。最高裁は当該期間の減額を違法と判断したが、厚労省は全額補塡ではなく一部補塡にとどめ、基準改定後も最低2.5%程度の引き下げを継続する意向を示している。この方針は7日に開催された専門委員会で正式に明らかにされた。

特筆すべきは、補塡の対象範囲で、減額の原告に限らず関連訴訟の原告や訴訟未参加の当時の受給者にも配慮する構えである。ただし、既に保護対象外となっている者や国外滞在者については実務的な課題を踏まえ慎重に検討していく見込みだ。また、死亡した受給者については過去の判例通り補塡対象外となる方向である。

専門委員会では、これまで減額根拠の一つとなってきた物価下落率を用いた「デフレ調整」の廃止を提案。今後は一般低所得者世帯の実態に即した基準で再評価を行い、再改定案として最低2.49%の引き下げ維持を検討しているほか、4.01%および5.54%の減額案も併せて示されている。これらの異なる減額率は調査期間や手法の差異に起因すると説明された。

最高裁判決の背景には、2013~2015年の生活扶助費減額が物価変動のみを理由に専門審議を経ず実施された点がある。裁判所はこれを「専門的知見との整合性欠如」と評し、生活保護法違反と認定した一方、物価基準に依らない「ゆがみ調整」については合法と判断した。

国費削減額は約670億円に上り、その内訳は物価下落を反映したデフレ調整分が約580億円、実態見直しによるゆがみ調整分が約90億円に及ぶ。今回の補塡検討では、ゆがみ調整分については従来通り補塡を行う方針だ。

また、基準再改定の根拠としては、総務省の全国消費実態調査(2009年データ)が用いられている。リーマン・ショックの影響緩和策として毎年の家計調査に補正が加えられており、こうした精査された消費実態をもとに引き下げ幅が算出される見込みである。

政治背景も不可欠な視点である。2012年の政権交代を経て、自民党は同年の衆院選公約で「給付水準の原則1割カット」を掲げ、旧政権からの大幅な方針転換として生活保護費の減額を実施。これが後の法的論争の火種となった点は注目に値する。

7日の衆院予算委員会で高市早苗首相は最高裁判決を踏まえ、「厚労相の判断過程や手続きに過誤や欠落があった」と公式に謝罪。国側として初の謝罪声明であり、今後の補塡措置と制度運営改善に向けた強い責任認識を示した。